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ループス岡村健右氏が語る 人を動かすゲーミフィケーションの基本

行動科学との共通点 継続と動機づけ

花崎 冒頭でお話ししたように、ウチが社内導入している行動科学が、本質的にすごくゲーミフィケーションに似ているなと思ってるんですね。そこでも具体的な手法、例えばポイントカードみたいなものをつくって動機づけるとか、きめ細かく承認をしてあげるみたいなことって結構言われていて、それこそチェックインするとバッジがもらえるゲーミフィケーションの仕組みと非常に近い。そういう意味では、どちらも人の心理に寄り添うものの考え方、普遍的な人間理解に立脚した考え方なんだと思います。だからこそ知っておく価値がすごくあるものだなと思っていて。それこそビジネスだけでなくプライベートでも活用できますよね。

岡村 そうですよね。それこそ女性と付き合うときなど、すごく自然にみなさん応用されてたりするんですよね。

花崎 行動科学ではこちらが意図する行動を相手がとらないのには2つのハードルがあると。1つはそもそも「やり方がわからない」っていうのと、もう1つは「やり方はわかってるんだけど続けることができない」というもの。先ほどおっしゃったマリオのファーストステージにおけるオンボーディングはまさに前者にあたるのかなと思いました。一方でおそらくより重要なのは行動を続けてもらうための動機づけをどうセットしていくのかということ。そんな感じでしょうかね。

岡村 そうですね。継続してもらうために、どういう動機づけをして、そこでどういうエッセンスを使うか。行動科学っておっしゃってましたけど、2・3年ぐらい前にアメリカで出された「ソーシャルゲームのダイナミクス」っていう本の中でも行動科学に関係するようなエッセンスに言及されていました。

花崎 例えば「離職率を下げる」がテーマの場合。これってゲームで言うところの離脱率と同じで、続けてもらうための知見がポイントですよね。
例えば、続けてもらうために、効果的に機能する考え方があればちょっと教えてください。

岡村 そうですね。大きいところで言うと「報酬」はすごく大事になってきますよね。これには貨幣価値があるものとないものの2種類があるんです。実質としての何か達成したらお金がもらえるというのと、お金ではない報酬、「うれしい」「楽しい」というものが与えられるという2種類がありまして。実は貨幣価値がある報酬よりも、貨幣価値がない「うれしい」とか「楽しい」といったものの方が続きます。
昨日も紹介させていただいたシンクスマイルさんでは、社員同士でバッジを贈り合い、褒めあった結果、それらが貯まるとランクアップして褒賞が受け取れるといった仕組みを導入されています。結果的には、褒賞が受け取れることよりもバッジをもらったりすることのほうがうれしいと。やっぱり人から褒められるってすごくうれしいですからね。確かにお金ももちろんうれしいですが、あくまで一時的なものだし、一人だけで完結してしまう。バッジもらいあうというのは、みんなから褒められるといった他者との関係性がある。さらに可視化されているので、この人はどういう人かというのも見えてくる。実際に社員さんにも聞いてみたのですが、「バッジもらうほうがうれしいよ」と言われていましたね。

花崎 動機づけの方法を金銭的なものと金銭的でないものに分けて考えることって、普段あまり考えずにやっている気がしますよね。たまたま金銭的なものを思いつくのかもしれないし、逆の場合も。金銭的なインセンティブっていうのは何か短期的に動機づけたい時にはもしかしたら効果的なケースもあるかもしれないですけど、継続的にやるときには難しいかもしれないですね。

岡村 お金だとお金目的になってしまうんですよ。

花崎 ああ、目的が変わっちゃうと。

岡村 「お金のためにやる」となってしまう。おそらく仕事でやる場合には、やっぱり仕事そのものを楽しくしてもらわないといけないと思うんですよね。お金にしてしまうとお金をもらうために頑張るようになってしまう。

花崎 このエリアの小売さんでもよく見受けられるのが、ポイントカード的なCRM施策。とくに量販店さんなんかはこぞって作ってますよね。そのポイントが「何曜日は何倍」とか、よくありますよね。ポイントって金銭の代用品みたいなものだとすれば、ポイントが顧客の目的の一部と化してしまう。すると、よりポイントが貯まるお店が出てくれば、そういう人は去って行くということになりかねない。ライフタイムバリューをあげ、お客様と長くお付き合いしたいという時にはやっぱり継続性がないと。そういうことでしょうね。
最終的に値引き競争だとか、ポイントどこまでつけるのかといった類いの話はきりがないですよね。泥沼の戦いになっている業界ってやっぱり見受けられるし。そういう意味では、「そのお店や会社ならではの楽しさ」みたいなことをセットすることによって、そのお店から離れたくないというような顧客との接点をもっておきたいですね。
人ってなんらかのフィードバックをもらって動機づけられると思うんですけど、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックがありますよね。例えば何かが取り上げられるとか、罰を与えれるといったネガティブなものと、何かもらえる、賞賛されるといったポジティブなもの。行動科学でよく言われるのが、ポジティブにしろネガティブにしろ、すぐ確かに得られる結果がすごく大事だといわれています。逆に不確かですぐに与えられないフィードバックは続きにくい。例えば続きにくいのはダイエットや英会話、英語の学習みたいなものですよね。ああいったものって、今日一日食事を抜いたからって、一気に体重が何キロ落ちたとかならないじゃないですか。英語も今日単語十個覚えたとしても、すぐペラペラしゃべれるわけじゃない。そういうのって続きにくいですよね。そういう時に楽しめる仕掛け、違う指標みたいなものを持って、それを見える化していくみたいなところでやっていくってすごい大事だし、ゲーミフィケーションの得意分野なのかなって思うんですけど、そこらへんはどうですか?

岡村 そうですね。ダイエットや勉強するところにゲーミフィケーション的な要素を取り入れるケースは、最近少なからずありますね。効果が見えにくいので、やった結果を見えるようにしていくのが大事です。やればレベルアップしたり、1日1回来れば何かしらインセンティブがあったりとか。

花崎 人の心の機微をうまくすくい上げる心配り。そこをどううまく設計に反映してあげるのかというところは大切でしょうね。
人の承認欲求をくすぐる仕組みとして、フェイスブックのいいね!ボタンってとても優れている思っていて。いいね!がつくと悪い気しないし、ちょっとうれしいわけですよね。いいね!する側もワンクリックでできてしまう。あれってフェイスブックに人が集まっていろんな情報を共有し続ける仕組みとしてはゲーミフィケーション的に秀逸なのかなと。

岡村 まさにそうですよね。昔SNSって、ミクシィもそうですけど、コメントを入れるだけでしたよね。コメントを入れる人って、参加者の5%~10%ぐらいなんですよ。これは昔から変わっていません。投稿する人、コメントする人は限られてきて、大多数の人は見てるだけの「傍観者」になってしまうんです。そういうサイレントマジョリティの「声なき人の声」を見せる形として、フェイスブックを始めとしたいいね!ボタンってすごく優れた設計になっていると思います。今はついてないサイト探すのが大変なくらいですよね。

花崎 やる前っていいね!ボタンが何がうれしいのかって正直思ってたところもあったんですけど、やっぱりやってみるといいね!をいただくと人間の本能的な承認欲求が満たされる。しかも情報発信のハードルがめちゃくちゃ低いと。本当にボタンを押すだけ。さらにソーシャルプラグインで他のところにも設置できる。本当によくできた仕組みですよね。

岡村 コメント書かない人でも、いいね!ボタンは押すっていう人はいますよね。

花崎 確かにそうですね。

株式会社ループスコミュニケーションズ 岡村 健右氏/株式会社大和広告 代表取締役 花崎 章