より能動的な人間理解がコミュニケーションを成立させる
花崎 おもしろいですね。私の個人的な印象として、例えば営業、モチベーションアップ、あるいはダイレクトマーケティング、いろんなお仕事を通じての共通点が、今の田中さんの強みにもつながってきていると思うんです。それは、一人ひとりの人間理解みたいなところ。一人ひとりの人間をどう理解してコミュニケーションを成立させるか、メッセージをいかに相手に受け取りやすくしていくのかというところに対する、緻密な準備をしておられるのかなという気がします。
田中 そこは準備というよりも、心構えですね。準備は相手が分からないから無理なんです。社長がおっしゃった通り、1対1のコミュニケーションだったら私はあなたの言うことが聞きたいんだということを前面に出す。それをちゃんと伝えれば多くの方は話してくれるんですね。割と不思議なもので、言いたいことがあれば言ってねっていうよりも、聞きたいんだと。同じような表現なんですけど、より自分達の望みを伝えるほうがいいんです。
花崎 「より能動的に人を理解しようとする」ということですかね。
田中 そうですね。教えてほしいんだと。それは社長がおっしゃった通り、ダイレクトマーケティングも一緒で、知りたいんだ、理解したいんだというところを出していくと案外情報は向こうから集まってくるんですよね。
花崎 なるほど。田中さんの講義とかプレゼンテーションを聞いていても、オーディエンスの今ある状況みたいなものを、すごく敏感に気にしながら組み立てておられるのかなと。
田中 よく見てらっしゃいますね。すごく気にしています。僕は「場」は生き物だと思っています。本当にその瞬間瞬間に変わるんですよね。空気感っていうものが。空気感が変わった時にそれを自分がどうにかするんじゃなくて、自分が合わせていく。そうすると不思議なものでまわりもついてくるんですよね。
花崎 言葉は交わしてないかもしれないけど、なんとなくのこの雰囲気、あうんの呼吸が場を作っていくと。
田中 そうですね。気にしていることは、講演なんかで1対多数の時っていうのは、僕始める前に絶対に一番遠くにいる人を見るんです。近くの人ってどうしてもやっぱり目が行くじゃないですか。そうじゃなくて、一番遠くの人に「私はあなた達を見てるよ」って、遠くの人に話しかけるつもりで始めるんですよ。そうすることで全体にまんべんなく、自分自身が目を配ろう、気を配ろうとする最初のスタートの意識にもなりますし。
案外聞いてる人っていうのは一番端っこの人なんかは傍観しているつもりでいるんですよ。それが冒頭に体と顔が向くと、ちょっと緊張なさるのがわかるんですよ。
花崎 受講者の立場でいろんなセミナーとかに参加していて思うのは、最前列の真ん中とか座る人は、最初からまあ、放っておいてもじゃないですけど、ご自身のやる気、モチベーションが高いっていうのがありますね。
「前からお詰めになってください」って言っても後ろに座るっていうのはやや傍観者的にそこで言われていることを見てみたいと。
田中 距離を取りたいっていうね。ありますよね。
花崎 そういった方も巻き込むということですかね。
田中 巻き込みたいんです。でもそれをちゃんとやっておくとね、おもしろいことに、感想でよくあるんですけど、もっと前で聞けば良かったと思いましたって多いんですよ。だからそのためにやっているんです。
あと、公演中よく動くって言われるんですけど、あれも実は意図があって、ずっと同じ演台で話していると、体が見切れている人はずっと見切れ続けているんですね。それが僕もったいなくって。動くと見えるじゃないですか。公演中絶対に僕は全員と一回は目を合わせたいという気持ちがあるんですね。だから可能な限りスライドを見ないし、自分のパソコンが正対するように前に置くんです。何が映っているかだけわかれば記憶していますから、可能な限り体を前に向ける。時間で言うと85%は前を向くようにしています。
花崎 なるほどね。何かそこで情報を発信するというよりも、顔を見ながら対話する感じですね。
田中 見てるんです。1対多数であっても、その中の誰かと話す感じ。たくさん話が出てくる中で、ここがこの人は好きなんだなと思ったらそこの部分はその人に向けて話をする。そうすると熱も伝わっていきますし、相手はやっぱりわかるみたいなんですよ。今自分に話しかけてるって思うみたいなんですね。それを時間いっぱい使って、可能な限りたくさんの人とコミュニケーションを取っていくと。
花崎 そういう意味から言うと、ダイレクトマーケティングの講座のなかでも、「共感」という言葉をよくお使いになるじゃないですか。価値を伝えることの大切さ。そしてその価値が共感につながっていくと。これは僕の勝手なイメージなんですけど、ダイレクトマーケティング畑の人と、共感っていう言葉って、私の中では対極にある言葉のように感じていて。例えば反応率を上げるとか、人間理解というよりもデータを見ながら何かを変えていくとか。極端な話だとデータを見ながら、ものが何個売れたかみたいな話だとか、何かの率が何パーセント上がったかとか、そういうことを結構見ていかれる。そしてPDCAをまわしていく世界というのが一方であると思うんです。
でもそれだけでは不十分なんじゃないかということで、例えば共感というダイレクトマーケティングの中で価値を伝える深い人間理解というところが、田中さんの一つのオリジナリティにつながっているのかなあと。そういう方って国内にも何人かいらっしゃると思うんですけど、田中さんもそういう立ち位置でやっているのかなあという気はしました。
ものが何個売れたかではなくで、何人の方が共感してくれたか、その結果ものを買ってくれたかみたいな考え方ですよね。発信者視点でここにある売り物を何個売ってやろうかということではなくて、相手に合わせながらどうやっていくのかというところに本質があるのかなあと。
そんな立ち位置というか、視点の違いみたいなところはプレゼンテーションとかセミナーの中にも表れているし、その人とのモチベーションアップというところにもつながっていると。どんなツール、アプローチを使っても、その向こう側には人がいるんだという基本を、すごく忠実に実践しておられると感じます。
田中 意識してますね。とはいえ、数字も大事にしているんですよ。数字は最終的な評価になりますので。それがないと、続いていかないですよね。自分達のプロモーションの満足度を見るときに、一番他人に理解を求めやすいのも数字なんで。もちろん途中段階の、誰が反応したかとかどうなったかっていうことはちゃんと大事にはしているんですけども、やはり数字は無視できません。
花崎 そうですね。数字を上げるためにもそういうプロセスが必要だということですよね。
田中 そこは両輪ですよね。分析しようと思えばやはり数字がないと軸がはっきりしないんです。なんか「10人か20人の方がこんなにいいアンケートくれたよ」って言ってもそこで終わっちゃうじゃないですか。その上に、「10人のいいアンケートがあって、そのうち2人が新しい仕事の見積もりをとってくれたんだよ」となると、2人が見積もりとってくれたことが一つの結果じゃないですか。
さらに、「どっちかの1人は仕事が取れて、何百万円の受注になったんだよ」となる。そこまでちゃんと追っかけて、数字で見えるから順位が良かったというアンケートも活きてくると思うんです。きちんと追いかけ続ける。追いかけ続けて、さらにその数字を、「じゃあ今度いくらにしたいから入口をどうする?」っていうのを考えていくのが本当のPDCA。よくなんかそのPDCAから数字を外す人もいるじゃないですか。なんか情緒的な話と数値の話は別にする人。僕はそれ全部はめ込んでいかないといけないと思うんですよね。時に冷静に数字を見て、時に情緒的に人を見て。どっちも必要と僕は思っているんです。
花崎 確かにそうですね。